こんにちは、LisNET代表の長坂です。
私が「足で歩いた・現場で話を聞いた」日本全国の元気な地域サイトをご紹介します。
今回は、兵庫県の中東部、京都府の西端に接する奥丹波、兵庫県氷上郡春日町(ひかみぐん・かすがちょう)のNPO「シフトアップかすが」が取り組んでいるITを使った町おこし事業の事例です。
インターネットの持つ可能性を信じるようになった町の青年たち(シフトアップかすが)が、ITをまちおこしの道具としてどう使い、自分たちの町(田舎)の情報をどのように扱い、発想し、発信しているかをご紹介します。
2001年9月から活動を開始したシフトアップかすがには、大きく2つの事業コンセプトがあります。
1つは、田舎に暮らす人の情報発信能力を高める活動『情報緑化事業』。
もう1つは、情報発信の舞台である地域サイトを開設し運営する『インターネット放送局事業』です。
この2つの事業が両輪となって、春日町の人たちという車体が少しずつ前に進んでいく、というものです。
シフトアップかすがの情報緑化事業とは、田舎に暮らす人たちが、インターネットに慣れ、身近に感じられるようにする活動や、情報発信者になれるようにする活動のことだそうです。
情報緑化事業・・・ステキなネーミングですね。
本格活動を開始した2002年から、トライ&エラーを重ねながら、いくつかの取り組みをされています。
●見守りiカメラ
このサービスは、寝たきりのお母さんをお持ちの農家の方からの、「母親がベッドから落ちていないか心配で仕方ない」という声がきっかけでスタートされたものです。
見守りたい現場(お母さんが寝ているベッド)にインターネットカメラを設置しておくと、その様子を携帯電話で見ることができます。
介護向けサービスとITを使った町おこしがどう繋がるのだろう、と思われましたか?
田舎に暮らす人たちにとって、インターネットやネット上の情報は常に「受け取るもの」でした。
農家の方にとっては、ネットは無縁のものだったかもしれません。
それが、このサービスがきっかけで、「利用できるもの」「便利なもの」と変化したのではないでしょうか。
●緑地でネット広げ隊
無線インターネット拠点(ホットスポット)の設置を支援するサービスも展開されています。
田んぼや山林の中など、自然の中でインターネットが利用できる環境を広げていこう、というユニークなものです。
三尾山から無線インターネット
三尾山から無線インターネット(※1)
春日町商工会館や町内の温泉旅館、メンバーが経営するコンビニエンスストアに設置しただけでなく、標高586メートルある三尾山の頂上でも無線対応のパソコンさえあれば、インターネットが利用できるようになっているのです。
試してみたいと思いませんか?
●レポーター養成講座・学びあい塾
田舎に暮らす人たちの情報発信力を高めて、後述するインターネット放送局「田舎.TV」のレポーター(情報発信者)になってもらおうというものです。
都市部から発信された情報を、田舎・地方の人は受信するだけ。常に受身だった田舎の人たちが、これからは発信者になりましょう、なれますよ、という取り組みです。ただ、「取り組み」「活動」といっても堅苦しいものではなく、シフトアップかすがのみなさんは、常に自然体のようです。大きなものを背負ったような、気負ったような感じがしないのです。
たとえば、「パソコン買ったのだけど、使い方が分からないから埃かぶったまま。ちょっとやってみようかしら」と聞けば、メンバーが自宅にお邪魔して、操作の糸口を教えてあげる。そんな小さな活動の積み重ねです。
教えて差し上げるときには、ワープロソフトや表計算ソフトの操作セミナーをするのではなく、「どのような情報を発信すると、どのような可能性が広がるか」という情報発信の持つ魅力を伝えることや、「日々の暮らしで気が付いたことを、そのまま文章にすればいいんだよ」といった情報発信のノウハウ的なことを中心にされています。
2002年からの活動の積み重ねが町の人たちに伝わり、2004年からメンバーの1人・荻野さんが経営する店内にシフトアップコーナーを設置し、毎月1回、「学びあい塾」を開催するまでになっています。
学びあい塾
ヤマザキショップおぎの店内で
学びあい塾(※2)
『兄ちゃんたちが、なんだか難しそうなことを始めたぞ』と見守っていた人たちが、『へぇ、便利なものらしいぞ』と思いはじめ、『自分でもできるかも』と感じ、『試してみるか』と変わっていく。
町の人の心に変化を与える事業が情報緑化事業。
私はそう感じました。
シフトアップかすがの、もう1つの事業が、インターネット放送局「田舎.TV」です。
田舎.TV
田舎.TV
情報緑化事業で育った人・情報を発信するサイト・舞台なのですが、サイトの持つ目的・発想に大きな特徴があります。
シフトアップかすがの代表理事・小橋昭彦さんは、その目的を次のように書いていらっしゃいます。
情報緑化事業によって芽吹いた田舎の「情報」を、世界に向けて発信していこうとする事業です。
二十世紀のメディアが、主に都市部から発信されたことによって、田舎の都市化、地方の人々の心の都市化を進めたとするならば、この二十一世紀のインターネット放送局は、都市の田舎化、都市の人々の心の田舎化を進めたいと考えています。
つまりこの事業は、受信者側(都市部の消費者と考えてもかまいません)の心を変革するための情報発信というところに特色があります。
一般の観光情報や特産品情報のように、現在の消費者の心を前提にマーケティングしていく発想ではなく、現在の消費のあり方そのものを変革し、持続可能な、二十一世紀型の農村、自然、地球のあり方を創造したいと考えています。
※「シフトアップかすが」サイトから転載
どうですか?分かりましたか?ちょっと難しそうに聞こえますね。
でも大丈夫ですよ。
私と一緒に、サイトのコンテンツを見ていきましょう。
シフトアップかすがが何を目指しているのか、きっと分かっていただけると思います。
まず、トップページの真ん中に町民レポーターが発信する「ふるさとレポート」があります。実例を見てみましょう。
2004年5月9日
タイトルは、「たけのこ」
レポーターは、主婦の「やぎさん」です。
やぎさん(※3)
石を持ち上げるたけのこ 首を横にのばしたたけのこ
今年はたけのこがいっぱい出てねぇ、
掘っても、掘っても、次から次へと黒い顔を出しています。
去年は、何んにも出えへんださかい、その分も出るんやろかねぇ。
私とこのたけのこは販売用ではないので、土の上に顔出すまで、何処におるのかわかりません。
そうやねぇ、土からちょっと顔を出した頃が食べ時で、土の中までトンガでこぼっと掘ります。
ちょっと見いに行かへんだら、見て下さい。
ぐんぐん伸びてもう竹の子どもですわ。
そしてねぇ、たけのこって、すーごい力もちですねぇ。
こーんな大きな石を、うーんと持ち上げて、びっくりしました。
中には、石の下に出たかなーと思たら、ひょいと首を横に伸ばして平気な顔してるのもおりましたわ。
(※3)
いかがですか?どう感じましたか?
このようなレポートが次から次へと、町民から届き、サイトに掲載されていきます。
写真を使ったレポートのほかにも、動画を使ったビデオレポートもあります。
春には「ふきのとう」「土手焼き」
夏には「ホタル乱舞」「クワガタとり」
秋には「丹波松茸」「秋に咲く桜」
冬には「餅つき」「とんど」など、
たくさんのビデオレポートが、田舎の四季と空気の流れを届けてくれます。
これらを見た読者からは、『面白かった』、『○○を食べたくなりました』などの反響メールが寄せられるそうです。
『こんな内容でいいんやろか?』と半信半疑だった町民レポーターのみなさんが、読者からの反響に喜び、自信を持ち、ますますレポートに励むようになる循環がおきるようになります。
情報発信の方法を「情報緑化事業」で学んだ人たちが、発信する機会を持ち、たくさんの方に見ていただく舞台があること。
これが、シフトアップかすがの両輪事業の大切さですね。
春日町の総面積の約7割は山林で、山に囲まれた谷間に、田んぼや畑が広がります。主な経済活動は農業です。
採れた農作物を都会に販売することは、シフトアップかすがの町おこしの1つの方法ですが、単に販売することを目指しているのではなく、「生産者と都市の消費者の関係を変える」ことを目指していらっしゃいます。
その販売手法、というか、コンテンツの数々に、目指すところを垣間見ることができます。
●田舎の人・空気・生活感
前述したレポートの数々が、田舎の人・空気・生活感という情報を発信し、都市の読者が忘れていた(または知らない)ノンビリ・ふんわりした空気を運んでくれています。
レポートの中には、もちろん、農作物に触れたものもたくさんあり、春日町の人たちが、毎日、自然と向き合いながらノンビリ・あせらずに、でも真剣に農業を営んでいる様子が伝わってきます。
●ほぼ毎日更新される農作物の成長記録
春日町で育つ農作物の成長記録が、ほぼ毎日更新されています。2004年6月時点では、次のような成長記録がありました。
・黒豆の成長記録
・田んぼの稲
・じゃがいもの成長記録
・大根の成長記録
●なりきりメール「田舎のおばあちゃん」
いわゆるメールマガジンなのですが、春日町出身者になったような気分になれて、春日町にいるおばあちゃんから時折メールが届く、という趣向あるメールサービスです。
なりきりメール 田舎のおばあちゃん
なりきりメール
田舎のおばあちゃん
おばあちゃんに呼んで欲しい名前を登録する仕組みになっているので、届くメールは、
『ゆか おばあちゃんです。』
と始まるのです。おばあちゃんっ子だった私は、このメールが届くたびに、ホロッと参ってしまいます。
ここまでの情報(コンテンツ)やサービスで、田舎(春日町)を親しみを持った目で見るようになり、ファンにさせられますね。
日本人が思い描く田舎そのものの空気を味わって、田舎に抱く郷愁を思いっきり感じさせられて、さあ、いよいよ農産物の販売です。
●採れたら販売
田舎.TVでは、基本的に、農作物が採れたたら採れた分だけ販売しています。
ネットショップの販売手法で言うと「限定販売」ですね。
ということは、採れなかったら、作れなかったら・・・販売しない・・・販売してくれないのです。
主導権がどちらにあるか分かりますか?
現在の生産者と都市消費者の関係は、都市の消費者が望むものを、田舎(地方)が生産して販売しています。
都市の消費者が望みそうなものを予想して(マーケティングをして)、生産して販売するという発想です。
それを逆転しようというのが、シフトアップかすがの目指しているところではないでしょうか。
田舎(地方)で採れた旬のものを届けてあげるから、それを食べて楽しみなさいと、田舎のおばあちゃんがメールで私に呼びかけます。
都会の消費者の心に、昔は当たり前だった消費活動・生産活動を思い出させ、昔に戻すことを、シフトアップかすがは、『都市の田舎化』と呼んでいるのだと私は思いました。
また、都市の田舎化・都市の人の心の田舎化が、究極の自然保護であり、田舎のまちおこしにも繋がるということなのだと思います。
壮大なテーマですから、数年単位では進まないでしょう。代表理事の小橋さんは「百年構想」とおっしゃって笑っておられます。
正直なメンバーの方は、「難しくて、よう分からん」とおっしゃっていました(笑)。「でも、楽しいから一緒にやるんだよ。」と結んでくれました。
シフトアップかすがは、インターネットを使った活動だけでなくリアルな活動も行っています。
2003年11月、春日町の中の中山地区で行われた「里山ウォークデー」と題した田舎体験イベントに行ってきましたので、ご紹介します。
●手作りの受付
手作りの受付
『おかえりなさい』
上手とはいえない手書きの文字が
温かく迎えてくれました
●手作りの冊子・地域通貨・ペンダント
受付では、手作りの冊子「中山の歩き方」、「中山散策図」、「里山体験案内」をもらいました。
冊子や資料を読んで、町内を自由に散策して田舎を体験してください、というイベントです。
手作りの冊子、ペンダント
手作りの冊子、ペンダント
間伐材を利用して作られたペンダントももらいました。町内の人が、田舎体験者を区別するための工夫のようです。
間伐材を利用した手作り地域通貨
間伐材を利用した手作り地域通貨
●明るく迎えてくれたオバチャン達
道端に座っても気にならない服装に着替える場所を探していたら、区民会館で、おにぎりの準備をしていたオバチャンたちに会いました。
『どこから来たの?』
「東京です。」
『まあ、遠いところから、よう来たねぇ。』
「インターネットで知って、ノンビリしたくなったので。」
『ああ、田舎テレビっていうのやろ?』
笑顔がとてもステキなオバチャンとおねえさんたち
笑顔がとてもステキな
オバチャンとおねえさんたち(^^)
●里山でできること
受付でもらった冊子、散策図を頼りに、1人でブラブラ歩いてみました。
細見さんのお宅では、「鯉の泳ぐ池を眺めて一息どうぞ」とあります。
田村さんのお宅では、「養蚕を行っていた古民家で、自家漬を手作りしょうゆで、そして握り飯を」とあります。
春日町の風景
アスファルトの道路が似合わない
イメージどおりの田舎
そのほかには、縁側で桑茶をすする/名木に抱きつく/しめ縄をなう/サツマイモを掘って焼き芋をする/昭和風の散髪屋さんの椅子に座る/井戸でつるべ落としをする/五右衛門風呂をわかす/ツバメの巣をのぞく/黄な粉を石臼でひく・・・・。
私は、つきたてのお餅をいただき、由緒ある正覚寺で番犬に吠えられ、イチョウの大木に実っていたギンナンを密かに持ち帰りたいと思い(持ち帰ってませんよ)、集乳所跡を見て、笹船流しの小川を見ながら休憩し、公民館でぜんざいのふるまいをいただきました。
田舎を、思う存分、のんびり堪能した1日でした。
小橋さんのお宅で餅つき
小橋さんのお宅で餅つき
次の写真は、地方でも見ることの少なくなったフツウの小川です。
その横に、木でできた立て看板が見えるでしょうか?
笹舟を流して遊んだ小川
笹舟を流して遊んだ小川
キレイな看板が立てかけられて、観光客(田舎体験者)が来ると、アラ不思議、田舎の人たち自身が、この小川を、貴重な小川として大事にしようと思えてくるのです。
処分に困っていた五右衛門風呂や嫁入り籠などが、こうすることで、処分されないで済んだだけでなく、田舎の貴重な文化財(誇り・自信)になったようです。
嫁入り籠
嫁入り籠
里山ウォークデーには、最終的に、約100人ほどの人が訪れたそうです。いつもは静かな春日町中山にとって、一時的に人口が倍増したかのような日だったでしょう。
イベントが終わり帰り支度をしていた際に、小橋さんが、町の人に「今日はどうだったかねぇ?」と尋ねていました。
シフトアップかすがのメンバーでないフツウの町民の方が、『いやぁ、刺激的な1日だったよ!』と、興奮気味に答えていた様子が、印象に残りました。
シフトアップかすがの活動が、町の人たちにとって『何もない辺ぴな田舎』だった春日町を、『自然の残るおらが町♪』に変えているなと感じました。
『単にインターネットを普及させることが目的ではありません。町を元気にすること、自分の町に自信を持ってもらうこと。そのために、ネットを利用してエネルギーを注ぎたいんです。』と代表の小橋さんは語ってくれました。
車のギアを、ローから2速、3速へと「シフトアップ」していくように町を活性化したい。そんな思いから名づけられた『シフトアップかすが』
楽しいことをやろうよ、と集まった仲間たちと、独特の発想と感性を持つ小橋さんたちの、これからの取り組みに注目していきたいと思います。
※印記載のある写真・文章は、許可を得て、次のサイトから転載させていただいてます。
※1:シフトアップかすが
※2:丹波.TV
※3:田舎.TV
2004/07/12
